IPO準備を進めるなかで、多くの企業が最初に直面する壁が「Ⅰの部」の作成です。社内に上場経験者がいない場合、何から手をつければよいのかわからず、手が止まってしまうケースは珍しくありません。Ⅰの部は上場後の有価証券報告書へそのまま引き継がれるため、初回の記載水準が将来の開示品質を左右します。
本記事では、Ⅰの部を作成するコツや上場申請書の記載例を活かす方法を中心に、外部専門家の選び方を含めた実務上のポイントを整理しています。
Ⅰの部の正式名称は「新規上場申請のための有価証券報告書」です。上場申請書類のなかで中核に位置し、記載内容は有価証券届出書や目論見書へそのまま転記されます。上場後も有価証券報告書として継続的に開示されるため、単なる審査用資料ではありません。
構成は「企業情報」「保証会社等の情報」「特別情報」「株式公開情報」の4部に分かれています。企業情報には主要な経営指標や事業内容、経理の状況が含まれ、最近2連結会計年度の連結財務諸表には監査法人による監査報告書の添付が求められます。金融商品取引法ベースの財務諸表は会社法ベースの計算書類より細かい規則が定められており、作成に慣れるまで相当の時間を要する点に留意してください。
Ⅱの部や各種説明資料との違いも押さえておく必要があります。Ⅱの部は審査用の非公開資料であり、会社全体を広範かつ詳細に記載する企業説明書です。一方、Ⅰの部は上場承認後に公衆へ広く開示されます。上場申請書の記載例として同業他社の有価証券報告書を参照する際も、この公開・非公開の違いを踏まえたうえで自社の開示方針を決定してください。
Ⅰの部作成のコツとして、複数の実務ガイドで共通して指摘されるポイントがあります。直近2連結会計年度の監査が必要となるため、n-2期からの着手が一般的です。そのため、申請時期というゴールから逆算し、各期の決算確定を見据えたスケジュール設計が出発点となります。
同業他社の有価証券報告書は、記載例として積極的に収集・活用すべき資料です。投資家は同業他社との比較分析に有価証券報告書を活用します。そのため、市場の透明性を重視する取引所の審査においても、比較可能性を意識した開示は高く評価される傾向にあります。記載項目ごとに他社の表現や開示範囲を確認し、自社の状況に合わせた記載レベルを設定しましょう。
Ⅰの部の作成では「いつまでに・誰が・何を・どのレベルで」完成させるかを明確にしたスケジュール設計が不可欠です。WBS(Work Breakdown Structure)を活用し、各タスクの担当者と期限を可視化する手法が有効といえます。
監査法人の監査日程と主幹事証券との打ち合わせタイミングをスケジュールへ組み込んだうえで、現実的な作成計画を策定してください。連結子会社がある場合は、各社の決算処理完了時期と連結パッケージの収集期間も考慮に入れる必要があります。スケジュールの遅延は資料提出期限に間に合わなくなるリスクに直結するため、早い段階で関係者全員と日程を共有しましょう。
Ⅰの部は記載事項が多岐にわたり、作成に熟練した担当者でも何度も修正を繰り返す書類です。バージョン管理を徹底し、修正済みの版と古い版が混在しない仕組みを整えてください。
経理部門だけでなく、法務や経営企画など関連部門を横断した確認体制を構築する必要があります。Ⅱの部との記載内容の整合性、Ⅰの部内での項目間の矛盾がないか、審査では厳格に確認されます。経営陣がレビューに参画し、客観的な視点で開示内容を評価する体制も欠かせません。
テック系スタートアップをはじめ、社内にIPO経験者が不在の企業にとって、外部コンサルタントの活用は現実的な選択肢です。Ⅰの部は記載ルールが細かく定められた専門性の高い書類であり、初めて作成する企業が独力で仕上げるには相当の負荷がかかります。
コンサルタント選定で重視すべきは、自社の業界特有の論点を理解しているかどうかです。業界ごとに開示が求められるリスク情報や事業構造の説明方法は異なります。自社のビジネスモデルに精通したパートナーと組むことで、審査対応の質とスピードが高まります。
選定時に確認したい観点は次のとおりです。
ただし、外部パートナーに依頼する場合でも、作成責任と説明責任は自社にあるという認識を持ち続けてください。開示すべき事項の漏れを防ぎ、自社の理解を深めるためにも、社内でのレビュー工程は省略できません。
Ⅰの部は上場後の有価証券報告書へ直結する重要書類であり、早期着手と計画的な進行が成功への前提条件です。n-2期からの逆算スケジュール設計、同業他社の記載例の収集・活用、部門横断のチェック体制構築――これらを着実に実行することで、IPO経験が少ないチームでも実務を前へ進められます。
自社の業界を深く理解した専門パートナーと組むことは、審査対応の精度を高めるうえで大きな力になります。まずはスケジュール策定の着手と、業界知見を持つ専門家への相談から一歩を踏み出してみてください。
IPO支援は業界ごとに求められる知識や手法が異なります。
ここでは、電子機器・半導体/飲食・小売/医薬・バイオに強みを持つコンサル会社を3社ご紹介します。
【選定基準】IPOコンサルでGoogle検索し表示される10社のうち、公式HPに業界などの支援実績を公表している会社のうち各業界の実績がもっとも多かった3社をピックアップしています。(2025年7月23日時点)
※1 参照元:WIN Consulting公式HP (https://www.winconsul.co.jp/ipo.html) (合計10件で最多)
※2 参照元:ブリッジコンサルティンググループ公式HP (https://bridge-group.co.jp/clients/) (合計27件で最多)
※3 参照元:響きパートナーズ公式HP (https://www.hibikipartners.com/case/) (合計11件で最多)
※4 参照元:WIN Consulting公式HP (https://www.winconsul.co.jp/company.html)